飯田線旧線(中井侍〜平岡)4

  
 愛知県の豊橋駅と長野県の辰野駅間約200kmを結ぶ長大なローカル線飯田線。その南側は天竜川沿いの断崖に沿って進む険しく風光明媚な区間を通過することになるが、そこのはダム建設による線路付け替え等で多くの旧線区間がある。JTBキャンブックス「鉄道廃線跡を歩くT]」にはその中でも中井侍〜伊那小沢 平岡〜為栗間については記述があるが、昭和57年に切り替えられたその中間の鶯巣〜平岡間については他と比べてあまり年月を経ていない為か全く述べられていない。
 しかし少し調べてみると、この区間にも隧道、橋梁を含む多くの遺構が残存している模様である。他の区間と比べれば歴史は浅いとはいえ、約30年の時を経た現地の状る所ではある。

再訪








 前回の探索では、鶯巣方面から数多くの隧道、橋梁を探索し最後の隧道、金毘羅隧道にたどり着いたが、内部の水没により通り抜けを断念した。
 
 今回(2009年8月)に再び現地を訪れ、水没地点から先の状況の探索を行った。

 地底湖の先には一体どんな景色が待っているのだろうか?
















 さて、約1年ぶりに訪れた飯田線旧線金毘羅隧道(と大崩隧道隧道の中間地点のロックシェード)だが、相変わらず国道418号のすぐ脇に堂々と開口している。

 ここまでアクセスの良い大物廃隧道もなかなか無いと思う。













 

 

 一歩足を踏み入れればこの幻想的な雰囲気。

 とてもすぐ脇を国道(この辺りの国道418号は酷道ではありません)が通っているとは思えない。
 
 金毘羅隧道の結末は気になる所だが、画面手前側の大崩隧道の鶯巣側抗口は、前回撮影を忘れていたので、とりあえず先にそちらへ。














 


 大崩隧道は、名前こそ大物感があるが、わずか50mほどで再び真夏の太陽の元へ出る。

 前回と同じ盛夏ゆえ、藪が酷くこれが精一杯。
 
 この辺りの他の隧道と同じようなコンクリートの抗口のようだ。














 


 前回のおさらいになるが、鶯巣側はすぐに戸面沢橋梁に続いている。
 
 この先も廃線跡は続いているが、ここを渡らずとも辿りつけるのは前述の通り。


隧道へ






 


 再びロックシェード区間を通過し、いよいよ金毘羅隧道へと進む。

 出口の光は見えず、一度来た事がある所とはいえ緊張感が走る瞬間ではある。

 この辺りはレールが残っているが、謎の堆積物によって枕木と共に埋もれつつある。

















 坑内に響く「キィ キィ」という音、一瞬セミでも迷い込んだかとも思ったが、そんな訳はなく天井にみっしり付いた蝙蝠の鳴き声である。

 突然の侵入者とライトの明かりに驚いた一部の蝙蝠はパニック状態になり坑内を飛び回ったが、元電化区間の天井の高い隧道が幸いしてか、体に当たるような事はなかった。

 なおマウスオーバーでモザイクが解除されるので、蝙蝠嫌いでない人はどうぞ。
















 50m程進むと堆積物は益々増え、枕木も完全に埋もれたようになる。
 
 レールも取り外され不気味な雰囲気が増す。

 さらに進むと土砂が人為的に1m程積み上げられており、この先の水没の直接の原因となっている。




















 さて前回引き返した水没地点。どこまでも水面と闇が続いているように見える。

 しかし今日は準備も万全だ。

 もう間もなくこの先の景色が解き明かされる。







地底湖




 


 水没地点は、急に深くなっている訳ではなく、土砂の堆積の減少とトンネルの勾配によって徐々に水深を増して行くようだ。

 一コマ前で、準備は万全と書いたが濡れても良い靴を持ってきただけである。

 しかしようやく長い梅雨も明け30℃を越える最高気温のこの日、トンネル内の地下水は丁度いい冷たさなのではないかと思われる。

 いざ入水。













 
 最初の画像では、水没地点が陰鬱な下水道のような雰囲気で写ってしまっているが、極めて動きの少ないと思われるトンネル地下水は非常に澄んでいる。

 やはり水は適度に冷たくて気持ちがよく、真っ暗な点を除けば真夏の太陽が照りつける外と比べて、快適ですらある。

















 路盤の土砂の堆積が減るにつれて徐々に水深が増すが、最大でも膝上程度で大した事は無い。

 それにしてもこの素掘りの荒々しさ、約30年前まで国鉄飯田線の隧道として現役だったとは思えない雰囲気だ(振り返って撮影)



 闇に包まれた地底湖をザブザブと進む。















 

 先ほど澄んだ水と書いたが一歩歩けば、たちまち濁った水に変わる。

 一見きれいな水でもどんな物質が含まれているか分からずやはり素足で浸かるのはあまり気分の良いものではない。

 永く水面下にあると思われるレールと枕木だが、思いのほか保存状態は良いようだ。












上陸





 水没区間は思ったより短く、約50mほどで終了する。
 
 画像は上陸地点を振り返って撮影したものだが、こちら側には水没の原因は見当たらず、やはり鶯巣側の土砂によって地下水がたまったのが原因のようだ。

 時期によって水位が上下することがあるのか、すこしの間湿った感じの路面が続く。
















 




 再び夏焼隧道にも似た雰囲気の、下半分素掘の乾いた廃隧道に戻るが未だに出口は見えない。

 水没地点を乗り越えてここまで来る人は少ないと見えて、ロックシェード付近にはたくさん落ちていたゴミ(なぜかビール缶ばかり)も見当たらない。


















 ようやく左カーブの先に出口が見えてきたが、ここからは内壁の状態も良くないと見えて、古レールの保支工が組まれている。

 剥がれかけたコンクリートと保支工との間に挟み込まれた木材が不気味である。

 それよりもこのブルーシート。画像では明るく見えるこの場所だが、実際には真っ暗に近く、そんな中でライトに照らされたブルーシートは非常に不気味としか言いようが無く、絶対に触りたくない。














 


 出口の手前には、コンクリート製の高さ1m程の段差が出来ている。
 
 長さは10m程続いており、何のために設置されたのかは解らないが、上はぬかるんでいて歩きづらい。
 
 完全に塞ごうとして途中でやめたのであろうか。


解明






 
さて出口が見えてきたが、今までと同様に簡易なフェンスが設置されているものの施錠されておらず全開である。

 この先がどうなっているかは見当がついており、既に引き返し濃厚ではあるのだが、一応外に出る。

















 


 久しぶりの日差しがまぶしい外だが、残念ながら引いた写真は撮れない状況だった。

 真ん中のプレートには金毘羅ずい道 延長611 と書かれているように読めるがそんなに長かったであろうか?

 上のプレートには今までの例に倣うと、豊橋からの通し番号が書かれていたと思われるが現存しない。



















 隧道の先はこの通りの状況。

 この下は民家の裏庭になっている事が解っており、横方向に移動すればあるいは国道へ脱出できる可能性もあるが、今日は靴も濡れている上になにより自転車をあちら側に置いてきてもいるので、ここはあっさり引き返しを決めた。
















 ちなみに山側はというとこうなっている。
 
 現役線の満島隧道が鉄橋の先に見えている。満島隧道は旧来からのもので、ここで新旧線は合流する。
 
 ここには写っていないが、金毘羅隧道の抗口のすぐ横には、旧線区間のほぼ全部を切り替えている現役の藤沢隧道が並んでいる。














 


 下から新旧線合流地点を見上げればこんな感じとなる。

 現役線の藤沢隧道の抗口は少し写っているが、位置的に金毘羅隧道は少し奥でこの画像では樹木に隠され見えていないようだ。








  完