やはり秋の南九州の夜明けは遅い。6時を過ぎても外は相当暗い。7時半位には出発したいのだがビジネスホテルと違い音が響く旅館では、あまり早朝から準備はできない。
仕方ないので廊下に置いてあった雑誌でも読もうと思ったが、なぜかほとんどが10年以上前のものだった。
ようやく明るくなってきた窓の外を眺めていると、都農駅に宮崎行の赤い普通列車が到着した所だった。
列車は通学の高校生で賑わっていたが、良く考えると、この辺りの日豊本線はまだ列車に乗った事がない。これから先この駅を列車で通る事はあるのだろうか。
準備も整ったので朝食の支度に忙しい女将に声をかけて出発する。昨日は日が暮れた後で良く見えなかったが、都農駅は個性的で印象に残る駅舎だ。
宮崎方面へ向かう前にすぐ近くの漁港へ寄ってみた。俺は漁港の雰囲気が好きだが、中でも朝が最高だ。
日向灘沿いを行く日豊本線とぴったり併走する県道は、交通量は少なく信号の無い道で快適だが、路肩がほとんどなく車に追い抜かれる時はヒヤリとする。
海沿いにも関わらず、近くで牛を飼っているようで独特の臭気が漂っていた。
今日最初の駅、川南駅は、県道に面した周囲に民家の少ない駅だ。しかし最近建てられた感じの洋風駅舎には駅員がいて利用者はそれなりにいるようだ。
待合室の自動販売機では地元製と思われるビン入りの牛乳があり、なかなかうまかった。
この先道は、海から離れ国道10号と合流するがアップダウンが多く意外に楽でない。昨日の夜、高鍋まで行こうと考えたのは相当無謀だった事が分かり、やめておいてよかったと思う。
川を渡ると市街地に入ったが、高鍋駅は国道からは結構離れた所にあった。延岡以来のみどりの窓口がある駅だが、周辺は意外に静かだ。
既に宮崎が近いためか国道の交通量は多く、中古車店やパチンコ屋がある都市近郊の風景の中を行く。地図によると次の日向新富駅の近くに町営温泉施設「サンルピナス」があるようなので寄る事にする。
入浴券を買い、中に入ったが、まだ時間になっていないら待ってくれとの事で、ちょうど腹も減っていたので駅の近くで何か食べることにした。
駅前には大きなスーパーやコンビニは進出しておらず昔からの商店が健在だ。
何軒かあった店の内の一軒に入ったが、弁当の特注があるようで大忙しな様子だった。
そんな訳であまり商品は並んでおらず買うか迷ったが、冷ケースに良さそうな弁当があったので聞いてみると昨日のだから半額でいいとの答えで購入した。
日向新富駅は新しい丸みを帯びた形のコンクリート駅舎で宮崎への通勤客が多そうな所だ。
駅前のベンチで朝食をとり、ちょうどよい時間になったので温泉へ向かう。
「サン・ルピナス」は北海道でよく見かける休憩室なども充実した施設で、すでに地元のお年寄り達で賑わっていた。
循環していないらしい天然温泉は気分がよかったが、一人の客がなぜか湯舟のなかで屈伸運動を一生懸命していて波が高く落ち着かなかった。
さっぱりした気分で「サン・ルピナス」を後にしたが、どうも後輪から異音がする。自転車を停めて良く見ると、タイヤのサイドがほつれてチューブがはみだしてブレーキシューと触れているようだった。
何度か調整したがうまくいかず、タイヤがバーストしては大変なので仕方なく後輪ブレーキを解放に近い状態にして走る事にした。
リアブレーキはもともとあまり効かないのでよほど急ブレーキでもしないかぎり大丈夫だろう。
佐土原町の中心駅、佐土原駅はかつて妻線が分岐していた駅で、鉄筋平屋の駅舎は利用者も多そうだ。
駅前では行商のおばあさんがリヤカーを引きながら魚を売っていた。いかにも新鮮そうだが、買うわけにはいかない。
川幅の広い大淀川を渡ると宮崎の市街地に入った。次の宮崎神宮駅は神宮をイメージした立派な屋根の駅舎が国道に面しているが、無人化されて久しいようで内部は荒れ気味だ。
宮崎神宮駅が宮崎神宮の最寄り駅なのは当然だが、元宮崎競馬場の「JRA宮崎育成牧場」も近い。単線の日豊本線を渡るとすぐにJRAのポスターが張られた門が見つかった。
戦前に建てられた古びたスタンドの向こうには南国の雰囲気が漂うコースが広がり、全く牧場と言う感じはしない所だ。事実最近まで、もう50年以上競馬が行われていないにも関わらず名目上JRAの競馬場として扱われていたらしい。
残念ながら調教は行われていなかったが、広々として気分のいい所だった。
やがて宮崎市街の中心部に入った。宮崎市の人口は30万人程で大分市よりも少ないが、街には新しい建物も多く活気がある。建て直された宮崎駅は内外共に斬新なデザインで駅とは思えない雰囲気だ。
次の南宮崎駅も市街地にあり、かつての「富士」の終点で宮崎空港線も分岐する日豊本線の主要駅だが、二階建のコンクリート駅舎は宮崎駅とは対照的に国鉄時代の雰囲気を残している。
周囲に住宅が立ち並ぶ駅を過ぎるとやがて水田地帯を走るようになり、徐々に道も登り勾配に変わった。
次の日向沓掛駅は畑の中にポツンとある駅で標識等も無く見落としやすい駅だ。道路よりも一段低い所にあるホームからは、山里の集落をゆったりと小川が流れる景色が気分がいい。
しかし丁度やってきた宮崎方面の列車からは沢山の高校生が下車して、一気に騒がしくなったので早々にこの駅を後にする。
緩い登りが続く道を走り、山が目前に迫ると麓の駅田野に到着した。
赤い屋根が印象的なこの駅は、事務所の部分に和菓子店が入っているものの旧来の落ち着いた雰囲気を残している。
この先、いよいよ峠道になるが勾配はそれほど急ではなく押すこと無く進めた。
しばらく登ると景色が開け、川沿いに青井岳温泉の立派な施設が建ってるのが見えた。
時間に余裕があれば、日帰り入浴でさっぱりしていきたい所だが、朝にも温泉には入ったし、暗くなる前に都城に着きたいので今回はパスする。
青井岳駅はすぐ先にあった。周囲に民家は見あたらず利用者の少なそうな駅だが、国道沿いにはコンビニもあり意外に開けている。
道はほぼ平坦になり、この辺りがサミットなようだ。周囲には「峠の茶屋」とばかりにドライブインやそば屋が何軒か見受けられる。
だいぶ腹も減ったので、道の駅「山之口」で遅い昼食にする事にした。そばがメインらしいレストランもあったが、既に1500を過ぎており、手早く済ませたいので売店の値引きになっていたおこわを購入した。
この道の駅もトイレ、レストラン、売店、と充実した内容で駐車場には沢山の車が停まっている。
旅行者にはうれしい道の駅だが、周辺で商売をしている人にとっては必ずしとも歓迎するものではないのかもしれない。
幅が広く走りやすいを道を一気に下ると、山之口の街に出た。夕暮れ時のせいか商店街のなかの国道号の交通量は多く思うように進めない。
山之口駅にはガラスが多用された立派な駅舎があるが、無人化されていて寂しい雰囲気だ。
既に都城までは10kmを切っていて、すぐ目の前のような感じがするが、日豊本線沿いの「都城盆地朝霧ロード」は一面の畑のなかを進む田舎道に変わり、都城まで市街地が続いている訳では無いようだ。
餅原駅はそんな風景の中にポツンとある利用者の少なそうな駅だ。
駅舎はもちろん待合室もなく、ちょっとした屋根の下にベンチがあるだけの所だが、ホームはステップのない新型電車の導入に合わせてか、最近かさ上げされたようできれいになっている。
川を渡り日豊本線はトンネルで抜ける小さな峠を越えると、民家も増えてきた。次の三股駅は一時期東都城を名乗ったこともあるらしいが所在地は東諸県郡三股町だ。
かなり前に無人化されたと思われる木造駅舎には頑丈そうな木組みのラッチや照明式の駅名票もあり、かつては利用者も多かったのだろう。
駅前には立派なロータリーもあるが、客待ちをするタクシーも無く静まり返っている。
ほとんど日も落ちた県道を進むと、ようやく都城の市街地に入った。
吉松とを結ぶ吉都線が分岐する都城駅は宮崎以来の大きな駅で辺りはさすがに賑やかだ。
しかし、今日は次の西都城駅の近くで泊まる予定なので、まだ終わりではない。高架になった日豊本線の下を進み、西都城駅に到着。古くからの街の中心はむしろこの辺りで、周辺には市役所や公共施設が集まっている。
今日泊まる予定の「幸福温泉」は、高架をくぐってすぐの住宅街にあったが、まだ何も食べていないので、街へ戻る。
国道10号を渡った所にある商店街では、高校生の集団が文化祭らしき準備をしていた。
この商店街も全国的な傾向で、シャッターを下ろしたままの店が多く、地元の商店会辺りが企画したのだろうか。
高校生も学校の教室よりもはるかに広く、沢山の人が通る商店街での文化祭はやりがいがある事だろう。
相当腹も減っているので適当な店に入ったが、運良く安くてボリュームのある所だった。
長崎ちゃんぽんならぬ「宮崎ちゃんぽん」は肉、野菜、魚等とにかくいろいろ入っていて、メニューには「一度たべれば3日は元気」とあった。
店としては、3日に一回しか食べに来ないのでは困るんじゃないかと思うが、実際、しばらくは遠慮したくなるボリューム感だった。
駅方面へ戻り再び高架をくぐって「幸福温泉」に到着した。
ここは、24時間開いていて仮眠室もある所だが、今までに泊まった健康ランドとは違い基本的に「銭湯」なようだ。なので料金は400円と安く石鹸やシャンプーは置いていない。
しかし本当に温泉らしい風呂は広くて気分が良く、仮眠室も平らな所に布団と毛布があり、寝やすかった。
本日の走行距離110.87km 走行時間10.43.13 平均時速10.3km 最高速度44.9km 自宅からの走行距離2016.32km以上〔推定〕