国道421号石榑峠 第一回  


 国道421号は三重県桑名市を起点として、滋賀県東近江市へと至る全長約70kmの国道だが、県境部分の石榑峠(いしぐれ)付近は幅2m制限という挟路の上に急勾配が続き、いわゆる「酷道」として名高い。また峠の手前に置かれた大型車の侵入を強制的に制限する対になったコンクリートの「門」は有名である。
 
 しかし2008年9月の豪雨による土砂崩れによって、三重県側の峠道は各所で寸断されその後も復旧されることなく現在に至っている。
 また2006年に三重県側、2007年には滋賀県側からも着工した全長4157mにも及ぶ
石榑トンネルを含む石榑峠道路の建設が着々と進んでおり、トンネルより先の三重県側の峠道はこのまま廃道になる運命のようだ(滋賀県側はとある理由により維持され続ける模様)。

 2011年1月追記 峠のNTTのアンテナは既に撤去されたようです。それと同時に三重県側の峠道も補修されつつあるという情報もあり、現在確認中です。

 トンネルは2009年1月30日に既に貫通を果たしており、開通は2011年度中の予定とまだ先だがトンネルとそれに付随する工事によって、三重県側はもちろん、滋賀県側でも峠への通行はかなり制限されているようだ。
 
2011年2月追記 
石榑トンネルを含む石榑峠道路の建設工事は既に最終段階に入っており3月26日には開通するようです。
  国土交通省滋賀国道事務所 
http://www.kkr.mlit.go.jp/shiga/
   国道421号 石榑峠道路が開通します。  
http://www.kkr.mlit.go.jp/shiga/ir/pdf/h230224.pdf
2011年3月26日追記 

 開通レポート 公開しました

 
最早車での通過は事実上永遠に不可能になってしまったと思われる国道421号石榑峠区間だが、トンネルが竣工して「酷道」から単なる旧道へと変わってしまう前にその姿を確認したい所である。

 出発



 2009年11月24日
 早朝の三岐鉄道三岐線三里駅で輪行を解き、初冬の朝日を浴びながら国道421号線を西に向かう。

 既に車レベルでは通行止めが濃厚だと思われるこの国道421号線だが、標識の行き先はしっかりと石峠を越えた先の滋賀県方面を示している。
 


 やがて、この国道421号と同じく鈴鹿山脈を越え滋賀県方面へと至る国道306号線と交わるが、ここにも通行止め等の表記は無い。

 特に迂回路等は無さそうだが。

 ようやく通行不能の標識かと思ったが、これはかの有名な峠手前のコンクリートブロック区間の事を示しており、現状ではそこまで車が入れるかは相当疑問だ。


 ようやく表れた完全通行止めの表示。
 
 車で峠に到達できる可能性はこれで完全になくなったと言えるだろう。しかし土砂崩れは自転車でならなんとかなるだろうという予測もあり、本当に恐れているのはそういった物理的な通行止めではなく…。

  石榑峠道路


 そう。まさにこれ。

 現在進行中のトンネル工事によって工事関係者に制止されるのが、もっとも恐れるべき展開なのだ。

 土砂崩れは根性でなんとかなってもこればかりは強行突破という訳にもいかない。

 しかし記載された日時をよく読むと11月24日から。それって今日…。

 ちなみに終了が12月下旬となっているがその頃には冬季閉鎖に入りそうなので、来年春まではダメであろう。


 しかし現在時刻はまだ7時45分。

 こういった工事は大抵8時過ぎから始めるものと思われるので、たとえ24日から通行止めでも今はまだ通過できるのではないか。

 左の通行止めは先ほどの電光掲示と同じく側路崩壊による通行止めを示しており、工事とは関係ない。

とりあえず急げ。

 半空きのゲートを越えると、すぐに国道421号は酷道とはかけ離れた真新しい広々とした2車線の道へと変わる。

 すぐにでも工事個所にかかりそうだが、案の定前方にはテールランプを点灯させたトラックが停まっている。


 工事関係者を乗せたトラックの横をそっと通過すると、工事中のトンネルへ繋がる真新しい橋へと掛かる。 峠への旧道は右折である。

 そういえば最初のゲートの手前で関係者らしき車に何台か抜かれており、その時は咎められることはなかったが、(しっかり凝視されたが)この先で再会する可能性が濃厚だ。

 果たして通してもらえるか。

 開かずのゲート


 
 近いうちに旧道化する運命の峠への道はいきなり1.5車線以下の相当狭い道へ変わる
 
 。ここは勾配もかなりきつく、何とかして工事が始まる前に一刻も早くこの先現れると思われる現場を通過したいのだが、少しの間押しを余儀なくされた。


 5分程で道はやや平坦になり、ついに問題の工事個所に差し掛かる。

 現在時刻7時54分。幸いまだ作業は始まってはいないようだが、既に人の気配は濃厚だ。

 緊迫の場面だが、ゆっくりと先へと進む。

 結論からいうと、ここは無事に通過できた。

 この場面の少し手前でちょうど道路の左側から上がってきた3人の工事関係者のすぐ横を通る形になり、一旦は制止されることも覚悟したがどういう訳かまったく気にとめられる事もなかった。

 ここは新トンネル工事が現道に干渉する為か仮橋が建設されているが、通行止めの理由である「仮桟橋」がここを指しているなら、これは撤去されてしまうというのであろうか。その場合は旧道へのアクセスはどうなるのであろうか?

 既に貫通を果たしているトンネル工事は気になる所ではあるが、抗口前には何人もの作業員がおり、落ち着いて観察することは出来なかった。

  再び国道はセンターラインの無い1.5車線程度の道に変わったが、ここまで来ればもはや工事関係者と遭遇する可能性も無いと思われ、安心して進めるというもの。

 現場



 新トンネル工事現場から僅か3分程で、頑丈そうなゲートに行きつく。

 ここから先は2008年の災害発生時からずっと通行止めになっており、新トンネルの竣工によってこのまま廃道化することが確定的だ。

 既に廃道への道を歩み始めているとはいえ、車の往来が途絶えてからやっと1年が過ぎた程度でまだまだ状態は良い。

 基本1.5車線程度の道だが場所によってはしっかり2車線あるところも存在し、地道に改良が進んでいた事を窺わせる。


 険しい峠道には似つかわしくない雰囲気の法面に書かれた絵。

 一見すると幼稚園の壁に描かれているような雰囲気もあるが、よく見れば杭、ハンマー ロープなども描かれており、テーマはあくまで謎である。

(マウスオーバーで表示します)


 目指す県境は当然石榑峠だが、その手前には鵜の峠と呼ばれるやや平坦な区間があり、その手前は結構勾配もきつい。

 しばらく2車線の状態が続いた道もやや細くなる。



 国道421号は鵜の峠を通過すると、再び谷を巻きながら標高を上げていく九十九折れの峠道に戻る。

 真新しい雰囲気の補修個所もあり、昨年秋の災害発生地点も既に修復されてしまったのであろうか?




と思ったがそんな訳もなく、新トンネルから約30分で大規模な崩落個所に差し掛かる。

 はたして無事に突破できるか。



 崩落地点に到達すると、斜面の相当上から崩れたかなりの規模ではあるが、それなりに踏み固められておりとりあえず通れそうだ。

 災害発生時から手つかずという訳ではなく、徒歩レベルでの応急修復工事は行われたようだ。


 本来崖の上部にあった筈の落石防止柵をコンクリート製の土台もろとも一瞬にして崖下に押し流した土砂崩れのパワーは想像を想像を絶するものがある。

 昨年の9月3日、辺りにはどのような轟音がこだましたのであろうか。


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